夕食のあと、まさはるさんがそう言いました。 さちこさんが湯呑みを置きます。
「よく噛んでないからでしょう。若い頃の食べ方のままなんだから」
「そういうものかね」
食べたものは、体の中でどうやって分解されるのでしょうか。
その働きをしているのが消化酵素です。 この記事では、消化酵素の種類と、それぞれがどこで何をしているのかを説明します。
- 消化酵素とは何か
- 口・胃・すい臓・小腸、それぞれではたらく酵素
- アミラーゼ・プロテアーゼ・リパーゼの違い
- よく噛むことと、消化酵素の関係
消化酵素とは、何か
消化酵素とは、食べたものを、体に吸収できる大きさまで分解する酵素のことです。
私たちが食べるものは、大きく3つに分けられます。 炭水化物、タンパク質、脂質です。
そして、それぞれに専門の酵素があります。 炭水化物を分解する酵素は、タンパク質には手を出しません。 酵素は決まった相手にしかはたらかないためです。
| 栄養素 | 酵素の総称 | 分解後の形 |
|---|---|---|
| 炭水化物 (でんぷん) |
アミラーゼ | ブドウ糖 |
| タンパク質 | プロテアーゼ | アミノ酸 |
| 脂質 | リパーゼ | 脂肪酸・グリセリン |
名前の覚え方があります。分解する相手の名前に「アーゼ」がつくと考えてください。 でんぷん(アミロース)を分解するからアミラーゼ。 タンパク質(プロテイン)を分解するからプロテアーゼ。 脂質(リピッド)を分解するからリパーゼです。
どこで、どの酵素がはたらくか
消化は、口から始まって小腸まで続きます。 場所ごとに、はたらく酵素が違います。
だ液に含まれるアミラーゼが、でんぷんの分解を始めます。 消化の第一歩は、口の中で起きています。 ごはんを噛んでいると甘く感じるのは、このためです。
胃液に含まれるペプシンが、タンパク質を分解します。 胃液は強い酸性で、ペプシンはその環境ではたらくようにできています。 だ液のアミラーゼは、ここで止まります。酸に弱いためです。
すい液には、アミラーゼ・トリプシン(プロテアーゼの一種)・リパーゼが含まれます。 3つの栄養素すべてに対応する酵素が、ここで出そろいます。 消化の主役はすい臓だと言われるのは、このためです。
小腸の壁にある酵素が、最後の分解をします。 マルターゼ、ラクターゼなど。 ここまで来て、ようやく吸収できる大きさになります。
消化酵素は、ひとつの場所で一気に分解しているわけではありません。 口から小腸まで、いくつもの段階を経て、少しずつ細かくしています。 リレーのような仕組みです。
代表的な消化酵素の一覧
名前がたくさん出てきたので、整理しておきます。
| 名前 | 出る場所 | 分解するもの |
|---|---|---|
| アミラーゼ | だ液腺・すい臓 | でんぷん |
| ペプシン | 胃 | タンパク質 |
| トリプシン | すい臓 | タンパク質 |
| リパーゼ | すい臓 | 脂質 |
| マルターゼ | 小腸 | 麦芽糖 |
| ラクターゼ | 小腸 | 乳糖(牛乳の糖) |
牛乳でお腹が鳴る理由
表の一番下、ラクターゼという酵素があります。 牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素です。
この酵素のはたらきは、大人になると弱くなる方が多いことが知られています。 日本人では特にその割合が高いと言われています。
牛乳を飲んだあとにお腹が張る、音が鳴る。 そういうことがあるのは、乳糖が分解されないまま腸に届くためだと考えられています。
体質の違いであって、体の不調ではありません。
消化酵素は、どこで作られるのか
消化酵素は、体の中で作られます。
だ液腺、胃、すい臓、小腸。それぞれの臓器が、 必要な酵素を必要なときに作り出しています。
作り方の設計図は、遺伝子にあります。 食べ物が入ってきたという信号を受けて、体が酵素を用意する。 そういう仕組みになっています。
「食べた酵素が、そのまま消化酵素になる」という説明を見かけることがあります。 これは正確ではありません。 食べた酵素はタンパク質なので、胃や小腸でアミノ酸に分解されます。 消化酵素は、体が自分で作っているものです。
消化には、どのくらい時間がかかるのか
食べたものが体を通り抜けるまでの時間は、 栄養素によって違います。
| 食べ物 | 目安 |
|---|---|
| 果物・野菜 | 1〜2時間 |
| ごはん・パン | 2〜3時間 |
| 肉・魚 | 3〜4時間 |
| 揚げ物・脂の多いもの | 4時間以上 |
脂質が最も時間がかかります。 リパーゼだけでは分解しきれず、胆汁の助けが必要になるためです。
揚げ物を食べた日の夜に胃が重く感じるのは、 まだ胃の中に残っているからだと考えられています。
寝る前の食事について
就寝の3時間前までに食べ終えるとよい、という話をよく聞きます。
これは、胃の中身がある程度片づいてから横になるという考え方に基づくものです。 厳密な決まりではありませんが、目安としては分かりやすいでしょう。
遅い時間に食べる場合は、脂の少ないものを選ぶ、量を減らす、 といった工夫ができます。
よく噛むことと、消化酵素
ここまで読むと、ひとつ分かることがあります。
消化の第一段階は、口の中で起きているということです。
だ液のアミラーゼがはたらくには、 食べ物とだ液が混ざる必要があります。 そのためには、噛む回数が要ります。
噛む回数が少ないと、だ液と混ざらないまま食べ物が胃に届きます。
口の中でできたはずの分解が、省略されることになります。
どのくらい噛むとよいのか
「30回噛みなさい」と言われることがあります。
ただ、回数を数えながら食べるのは現実的ではありません。 飲み込む前に、食べ物が形をなくしているかを 目安にするほうが分かりやすいでしょう。
かたまりのまま飲み込んでいるなら、噛む回数が足りていません。
歳を重ねると、噛む力は変わる
歯の状態、あごの力、だ液の量。 これらは年齢とともに変化します。
若い頃と同じ食べ方をしていると、 同じ量を食べても、噛む回数が足りなくなっていることがあります。
食べる量を減らすより、噛む回数を意識するほうが先かもしれません。 やわらかく調理する、小さく切る、といった工夫もあります。
まとめ
-
1
消化酵素は、食べたものを吸収できる大きさまで分解する酵素です。
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2
栄養素ごとに専門の酵素があります。 アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの3系統です。
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3
口・胃・すい臓・小腸と、リレーのように段階を追って分解されます。
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4
消化酵素は体が自分で作っています。 食べた酵素がそのまま消化酵素になるわけではありません。
-
5
消化の第一段階は口の中。よく噛むことが、その入口になります。
まさはるさんが言いました。さちこさんがうなずきます。
「前から言ってるでしょう。急いで食べる癖があるのよ」
「昔は工場の昼休みが短かったからなあ」
習慣というのは、なかなか抜けないものです。
よくある質問
分解する相手の名前+アーゼと覚えると整理しやすくなります。 でんぷん(アミロース)→アミラーゼ、 タンパク質(プロテイン)→プロテアーゼ、 脂質(リピッド)→リパーゼ。 ペプシンとトリプシンは例外的な名前ですが、どちらもタンパク質を分解します。
すい臓は、3種類の消化酵素をまとめて作る臓器です。 アミラーゼ、トリプシン、リパーゼが、すい液として十二指腸に出されます。 3つの栄養素すべてに対応できるのは、すい液だけです。
あります。大根のアミラーゼ、パイナップルのブロメラインなどです。 ただし、これらが体内の消化酵素の代わりになるわけではありません。 食べ物に含まれる消化酵素については、別の記事でまとめています。
中学校の理科で、だ液のアミラーゼを使った実験を行います。 だ液とでんぷん溶液を混ぜ、ヨウ素液やベネジクト液で反応を見る実験です。 お孫さんが「学校でやった」と言うことがあるかもしれません。
年齢とともに消化の働きが変化することは知られていますが、 酵素だけが原因とは言えません。 食べる量、噛む回数、活動量、そのほか多くの要素が関わります。 気になる変化が続く場合は、かかりつけの医師にご相談ください。
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※この記事は、酵素という物質についての一般的な情報をまとめたものです。
特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※登場人物は物語上の設定です。
※健康食品は医薬品ではありません。
体調に不安のある方は、かかりつけの医師にご相談ください。
監修:菊地睦(げんき生活株式会社 代表取締役)


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