遊びに来た孫が、そう言いました。まさはるさんが首をかしげます。
「酵素はタンパク質を分解するんじゃなかったか」
「どっちなのかしらね」
さちこさんも、湯呑みを持ったまま止まりました。
酵素について調べていると、必ずぶつかる疑問があります。
酵素はタンパク質なのか。それとも、タンパク質を分解するものなのか。
答えは「どちらも本当」です。ただし、話している対象が違います。 この記事では、その混同を整理します。
- 酵素そのものが、何でできているか
- タンパク質を分解する酵素の話
- 2つが混同されやすい理由
- 分解されたタンパク質は、そのあとどうなるか
酵素そのものが、タンパク質でできている
まず、ひとつ目の事実から。
酵素は、タンパク質という材料でできています。
タンパク質は、アミノ酸がたくさんつながった物質です。 そのつながり方と折りたたまれ方によって、さまざまな形になります。
筋肉もタンパク質。髪の毛もタンパク質。そして酵素もタンパク質です。 同じ材料から、まったく違うものができています。
折り紙に例えると分かりやすいかもしれません。 同じ紙から、鶴もかぶともできます。 材料は同じでも、折り方が違えば別のものになります。 タンパク質も、アミノ酸の並び方と折りたたまれ方で、役割が決まります。
形が変わると、はたらかなくなる
酵素がタンパク質だという事実から、ひとつの性質が導けます。
熱を加えると、はたらかなくなるということです。
卵を焼くと白く固まります。あれはタンパク質の形が変わったからです。 一度変わった形は、冷やしても元に戻りません。
酵素も同じです。熱で形が変わると、相手に合わなくなり、 はたらきを失います。これを失活と呼びます。
タンパク質を分解する酵素もある
次に、ふたつ目の事実です。
タンパク質を分解する酵素が存在します。 これらをまとめてプロテアーゼと呼びます。
胃のペプシン、すい臓のトリプシン。どちらもプロテアーゼの一種です。 食べた肉や魚のタンパク質を、アミノ酸に分解しています。
| 名前 | 出る場所 | はたらく環境 |
|---|---|---|
| ペプシン | 胃 | 強い酸性 |
| トリプシン | すい臓 | 弱いアルカリ性 |
| キモトリプシン | すい臓 | 弱いアルカリ性 |
胃とすい臓で、はたらく環境が正反対なのが面白いところです。 胃液は強い酸性、すい液は弱いアルカリ性。 それぞれの場所に合った酵素が用意されています。
混同しやすい、2つの関係
ここまでを整理します。
酵素は、タンパク質でできている。
そして、タンパク質を分解する酵素もある。
主語が違うだけで、どちらも正しい話です。
混乱が起きるのは、「酵素とタンパク質」という言葉だけを見たときです。 材料の話をしているのか、分解する相手の話をしているのか。 これを分けて考えると、すっきりします。
では、プロテアーゼは自分を分解しないのか
鋭い疑問です。
プロテアーゼはタンパク質を分解します。 そしてプロテアーゼ自身もタンパク質です。 自分で自分を分解してしまわないのでしょうか。
実は、ある程度は起こります。時間が経てば、プロテアーゼ同士が 分解し合うことが知られています。
ただ、体はうまくできていて、必要なときに必要な分だけ作るので、 問題になりません。すい臓では、はたらかない形で作っておき、 十二指腸に出てから活性化する仕組みもあります。
分解されたタンパク質は、どうなるか
食べたタンパク質は、アミノ酸まで分解されて吸収されます。
そのあとが重要です。
肉・魚・大豆などのタンパク質が体に入ります。
胃とすい臓のプロテアーゼが、アミノ酸に分解します。
小腸からアミノ酸として取り込まれます。
体が必要とする形のタンパク質に作り直されます。
ここが大事なところです。
食べたタンパク質が、そのままの形で体の一部になるわけではありません。 いったんアミノ酸というパーツまでばらされ、 そこから体が必要な形に組み立て直します。
これは、酵素についてよくある誤解とつながります。 「酵素を食べれば、体内の酵素が増える」という説明です。 食べた酵素もタンパク質なので、アミノ酸まで分解されます。 そのアミノ酸は、体が必要とするものに使われますが、 元の酵素と同じものに戻るわけではありません。
材料としては役に立つ
ただし、無駄になるわけでもありません。
体が酵素を作るには、材料としてアミノ酸が必要です。 食事から十分なタンパク質を摂ることは、 酵素を含め、体のあらゆるタンパク質を作るために必要です。
「酵素をそのまま補う」のではなく、 「作るための材料を用意する」と考えるほうが、実際に近いでしょう。
肉をやわらかくする酵素
タンパク質を分解する酵素は、台所でも使われています。
パイナップル、パパイヤ、キウイ、いちじく。 これらには、タンパク質を分解する酵素が含まれています。
肉を漬けるとやわらかくなるのは、この酵素が 肉のタンパク質を分解しているためです。
塩麹も同じです。麹菌が作るプロテアーゼが、 肉や魚のタンパク質にはたらきます。
タンパク質は、1日にどのくらい必要か
材料の話が出たので、少し触れておきます。
日本人の食事摂取基準では、成人の1日のタンパク質推奨量は 男性で60〜65g、女性で50gとされています。 65歳以上では、これより多めが望ましいという考え方もあります。
| 食品 | おおよその量 |
|---|---|
| 鶏むね肉 | 80〜90g |
| 鮭の切り身 | 1切れ(80g程度) |
| 卵 | 3個 |
| 木綿豆腐 | 300g(1丁弱) |
| 納豆 | 2〜3パック |
分けて摂るほうがよい
一度に大量に食べても、体は使い切れません。
朝・昼・夕に分けて摂るほうが、 体がタンパク質を使いやすいと考えられています。
朝食を抜くと、1食分が丸ごと欠けることになります。 食が細くなってきた場合は、 量を増やすより回数を分けるほうが現実的かもしれません。
年齢を重ねると、食べる量そのものが減っていきます。 同じものを食べていても、総量が減っているということが起こります。 豆腐や卵など、量のわりにタンパク質が多い食材を 覚えておくと、選びやすくなります。
まとめ
-
1
酵素は、タンパク質という材料でできています。
-
2
タンパク質を分解する酵素も、別に存在します(プロテアーゼ)。
-
3
酵素がタンパク質だから、熱で形が変わるとはたらかなくなります。
-
4
食べたタンパク質は、いったんアミノ酸までばらされてから組み立て直されます。
-
5
食べた酵素も同じです。そのまま体内の酵素になるわけではありません。
まさはるさんが言いました。さちこさんがうなずきます。
「お肉をやわらかくするのも、同じ仕組みだったのね」
孫は、もうテレビを見ていました。
同じではありません。タンパク質という大きな分類の中に、酵素が含まれます。 筋肉や髪の毛もタンパク質ですが、酵素ではありません。 酵素は「化学反応を助ける役割を持つタンパク質」のことです。
タンパク質を分解する酵素の総称です。 胃のペプシン、すい臓のトリプシン、パイナップルのブロメラインなどが該当します。 プロテイン(タンパク質)+アーゼ(酵素)という名前です。
アミノ酸が部品、タンパク質が組み上がった製品です。 アミノ酸がたくさんつながって、折りたたまれるとタンパク質になります。 人の体では20種類のアミノ酸が使われています。
形が変わり、はたらきを失います。これを失活と呼びます。 卵を焼くと固まるのと同じ現象です。 一度変わった形は、冷やしても元に戻りません。
パイナップル、キウイ、パパイヤ、いちじく、塩麹などが使われます。 いずれもタンパク質を分解する酵素を含みます。 ただし漬けすぎると身が崩れるので、時間は短めにしてください。
食品添加物は使用していません。1日あたり約189円。
※この記事は、酵素という物質についての一般的な情報をまとめたものです。
特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※登場人物は物語上の設定です。
※健康食品は医薬品ではありません。
体調に不安のある方は、かかりつけの医師にご相談ください。
監修:菊地睦(げんき生活株式会社 代表取締役)


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