テレビでそんな話をしていました。さちこさんが言います。
「うちは入れるわね。昔からそう」
「なんで入れるんだろうな」
まさはるさんが、素朴なことを聞きました。
酢豚にパイナップル。 好き嫌いが分かれる話ですが、入れるのには理由があります。
パイナップルに含まれるブロメラインという酵素が、 肉のタンパク質を分解するためです。
この記事では、その仕組みと、台所での使い方を説明します。
- パイナップルに含まれる酵素の正体
- 肉がやわらかくなる仕組み
- パパイヤ・キウイ・いちじくとの違い
- 生と缶詰の違い
- 漬け込むときの注意点
パイナップルに含まれる酵素
パイナップルには、ブロメラインという酵素が含まれています。
タンパク質を分解する酵素、つまり プロテアーゼの一種です。
果肉よりも、芯に近い部分と、茎の部分に多く含まれることが 知られています。工業的にブロメラインを取り出すときは、 茎が原料として使われます。
パイナップルの芯は、硬いので捨ててしまうことが多い部分です。 ただ、酵素という観点では芯のほうが多く含まれています。 細かく刻んで肉と一緒に使う、という方法もあります。
肉がやわらかくなる仕組み
肉が硬いのは、筋繊維やコラーゲンといったタンパク質が しっかり結びついているためです。
ブロメラインは、このタンパク質の結びつきを切ります。
パイナップルの果汁が、肉の表面に接します。
ブロメラインが、タンパク質のつながりを分解します。
繊維がゆるみ、噛み切りやすくなります。
熱を加える前に、すでに分解が始まっています。 だから、漬け込む時間が結果を左右します。
表面だけにはたらく
ひとつ知っておきたいのは、 酵素は肉の表面からしかはたらけないということです。
分厚い肉を短時間漬けても、中まで届きません。 薄切りにする、切り込みを入れる、といった工夫をすると 酵素が触れる面積が増えます。
似たはたらきを持つ果物
タンパク質を分解する酵素は、他の果物にもあります。
| 果物 | 酵素の名前 | 特徴 |
|---|---|---|
| パイナップル | ブロメライン | 手に入りやすい。缶詰は不可 |
| パパイヤ | パパイン | 熱にやや強い。青パパイヤに多い |
| キウイ | アクチニジン | 風味が穏やか。肉になじみやすい |
| いちじく | フィシン | はたらきが強い |
| 梨 | プロテアーゼ | 韓国料理でよく使われる |
韓国の焼肉で、梨をすりおろしてタレに入れるのは、 このはたらきを利用したものです。
麹も同じことをしている
果物だけではありません。
塩麹に肉を漬けるとやわらかくなるのも、同じ理屈です。 麹菌が作り出すプロテアーゼが、肉のタンパク質にはたらきます。
しかも麹の場合、分解されてできたアミノ酸が うま味として残るという利点があります。
生と缶詰の違い
ここが実用上、いちばん大事な点です。
缶詰のパイナップルでは、肉はやわらかくなりません。
製造過程で加熱されているため、ブロメラインが失活しています。
酵素は熱で形が変わり、はたらきを失います。 缶詰は殺菌のために加熱されるので、酵素は残っていません。
味や香りづけとして缶詰を使うのは問題ありませんが、 肉をやわらかくしたい場合は、生のパイナップルを使ってください。
ゼリーが固まらないのも同じ理由
生のパイナップルでゼリーを作ると固まりません。
ゼラチンはタンパク質なので、ブロメラインに分解されるためです。 缶詰を使えば問題は起きません。
寒天は海藻からできているので、影響を受けません。
漬け込むときの注意点
やわらかくなるのは良いことですが、やりすぎると失敗します。
30分から1時間程度。長くても2時間まで。
肉200gに対して、パイナップル果汁は大さじ1〜2程度。
冷蔵庫の中で。常温だと雑菌が増えます。
果汁を軽く拭き取ってから焼くと、焦げにくくなります。
漬けすぎると、**肉の繊維がほぐれすぎて、 ぼそぼそした食感**になります。 「やわらかい」を通り越して「崩れる」状態です。 時間を計っておくのが確実です。
口の中がピリピリするとき
パイナップルを食べて、舌がピリピリすることがあります。
ブロメラインが口の中のタンパク質にはたらいているためだと 考えられています。食べ過ぎると起こりやすくなります。
加熱すれば起こりません。気になる場合は量を控えるか、 軽く火を通してください。
酢豚に入れる派か、入れない派か
最後に、最初の話に戻ります。
酢豚にパイナップルが入る理由は、はっきりしていません。
肉をやわらかくするためという説、 中国料理が海外に広まる過程で加わったという説、 甘酸っぱさが料理に合うという説。いくつかあります。
ただ、酵素のはたらきという意味では、理にかなっています。 先人が理屈を知っていたかどうかは分かりませんが、 結果として、合理的な組み合わせになっています。
好みの問題は、また別の話です。
加熱すると、味も変わる
酵素の話とは別に、加熱による変化にも触れておきます。
パイナップルを焼くと、甘みが強く感じられます。 水分が抜けて味が濃くなること、 糖が加熱で変化することによるものです。
フライパンで両面に焼き目をつける。肉料理の付け合わせに。
酢豚など。加熱で酵素が失活するので、肉が崩れません。
タルトやケーキ。生地のタンパク質への影響がなくなります。
生のパイナップルを使った料理で失敗しやすいのが、 乳製品との組み合わせです。 ヨーグルトや生クリームと合わせると、 時間が経つにつれて苦味が出ることがあります。 タンパク質が分解されるためです。食べる直前に合わせてください。
食べ方と、選び方
肉料理の話が続いたので、 パイナップルそのものの話もしておきます。
完熟したものを選ぶ
パイナップルは、収穫後に追熟しません。
バナナやアボカドと違い、 収穫したときの甘さがそのまま続きます。 店頭で選ぶときは、すでに熟しているものを選んでください。
底の部分から甘い香りがするもの。
全体に黄色みがかっているもの。
大きさのわりに重いもの。
中央の葉が抜きやすいものは熟しているとされます。
芯まで使う
芯は硬いので捨てられがちですが、 ブロメラインは芯に多く含まれます。
細かく刻んでスムージーに入れる、 肉の下味に使う、といった方法があります。
煮込んで柔らかくすれば、食べることもできます。
切り分けたパイナップルは、冷蔵庫で2〜3日が目安です。 冷凍すれば1か月ほど保存できますが、 解凍すると食感が変わります。 凍ったままシャーベットのように食べる方法もあります。
まとめ
-
1
パイナップルにはブロメラインという、タンパク質を分解する酵素があります。
-
2
肉がやわらかくなるのは、タンパク質の結びつきが切られるためです。
-
3
酵素は表面からしかはたらきません。薄く切ると、酵素が触れる面が増えます。
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4
缶詰では、肉はやわらかくなりません。加熱で酵素が失活しているためです。
-
5
漬けすぎるとぼそぼそになります。30分〜1時間が目安です。
まさはるさんが、酢豚をつつきながら言いました。
「でも、入ってないほうが好きだけどな」
「だったら最初からそう言いなさいよ」
さちこさんが笑いました。
パイナップルに含まれる、タンパク質を分解する酵素です。 果肉より芯や茎に多く含まれます。 食品加工では、肉をやわらかくする目的で利用されています。
なりません。製造時の加熱で酵素が失活しているためです。 肉をやわらかくしたい場合は、生のパイナップルを使ってください。
30分から1時間が目安です。長くても2時間まで。 漬けすぎると繊維がほぐれすぎて、ぼそぼそした食感になります。
ブロメラインが口の中のタンパク質にはたらくためだと考えられています。 食べ過ぎると起こりやすくなります。 加熱すれば起こりません。
キウイ、パパイヤ、いちじく、梨、塩麹などがあります。 いずれもタンパク質を分解する酵素を含みます。 塩麹は、うま味も加わるという利点があります。
食品添加物は使用していません。1日あたり約189円。
※この記事は、酵素という物質についての一般的な情報をまとめたものです。
特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※登場人物は物語上の設定です。
※健康食品は医薬品ではありません。
体調に不安のある方は、かかりつけの医師にご相談ください。
監修:菊地睦(げんき生活株式会社 代表取締役)


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